アーク ナイツ ss。 【アークナイツ】リセマラ当たりランキング(最新版)

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自分の業務の1つに人的資源の管理がある。 各オペレーターの採用、労務、教育、昇進など、あらゆる人事差配を一任されている。 具体的な仕事としては、オペレーターの特性を把握して仕事を割り振り、今の人材で補えない部分を外部から呼び込む。 この繰り返しだ。 この繰り返しこそが組織をより強固にしていく。 ロドスの成長に欠かせない仕事だ。 どれだけ書類を見直しても、いて然るべき重要な人材がいないのだ。 レユニオンとの抗争が激化している現状を鑑みるに、これは由々しき事態だ。 脂汗が吹き出る。 これは非常にまずい。 一体いつから放置していたのか。 記憶を失う前の自分は何をしていたんだ。 ロドスの為に奔走するドクターの物語である。 【おいでませエイヤフィヤトラ!!!】 「ドクター、何言っているんだ?突然叫ぶなんて気持ちが悪いぜ。 彼女の持つアーツの素質は驚異的で、特に炎に関しては無類の出力を誇る。 ロドスの中でもトップレベルの逸材だった。 「術師が必要なんだろ?じゃあオレサマを連れて行けよ。 気に入らねぇ奴がいたら片っ端から消し炭にしてやるからさ!」 腕を組みながら得意げに笑うイフリータ。 手首には鉱石病患者特有の原石痕が見えた。 イフリータの申し出は有難い。 とても有難いのだが、今回自分が求める術師とは大きく異なっていた。 「ありがとう。 でも今は結構。 目尻も吊り上がりはじめた。 心なしか部屋の温度も上がった気がする。 そう、彼女は強力な術師オペレーターだが、火力が強過ぎてアーツの制御ができないのだ。 彼女は癇癪1つで周囲を巻き込むほどの炎を発生させてしまう。 精神の未熟さも相まって、予測不能の火山と化す時もあった。 今回は自分の低身低頭の謝罪と、ハバネロチップス3袋で怒りを収めることができた。 表情だけ見ると年相応に感じられる。 彼女の機嫌が良い内に話を進めていく。 もう怒らねぇから言ってみろ」 「君のアーツはとてもコントロールし辛い。 火力は随一だが、環境を間違えれば全く有効ではないんだ」 彼女の生み出す炎は真っ直ぐにしか進まない。 そのため軌道も読まれやすいのだ。 一本道なら敵無しなのだが、側面からの攻撃や、障害物を利用した絡め手には滅法弱かった。 環境だと?だったらそれごと燃やし尽くしてやらぁ!」 「流石ナンバーワンだな」 「そうだろうそうだろう!だからさ、他の術師なんていらねぇよ。 オレサマ1人で十分なんだって!」 威勢良く吠えるイフリータだが、声は微かに震えていた。 どうやらアーツの制御が不得手であると自覚しているようだ。 目線を合わせ、満面の笑みで答えてやる。 イフリータの目の色が変わった。 猜疑から歓喜へと変化するのが手に取るように分かった。 後はこのまま煽ててやればいい。 「その通りだ。 君の火力を発揮する為には、障害物のある戦場は相応しくない。 そんな場所は他の術師に代わりをやってもらうんだ。 興奮で鼻を鳴らしている。 先程の怒りが嘘のようだ。 イフリータを丸め込むなんて朝飯前だ。 胸を張ってギャハハと笑う彼女を撫でながら、懐から1枚の写真を取り出した。 写真の中には立派な山羊角を生やしたキャブリニーの少女が笑顔を見せている。 それにオレサマと比べるとヒョロそうだ」 「そんなことないさ。 エイヤフィヤトラはイフリータと同じ感染者だ。 きっと仲良くしてくれるだろう。 「この写真を渡そう。 君の力を借りたい」 「おっ、早速出番だな!いいぜ、何をやればいいんだ?」 「この写真を事務室にいるアーススピリットに見せてほしい。 こっちが本題だ。 君のライン生命での交友を見込んで、エイヤフィヤトラについて聞き込みもしてくれ」 「おぉ!なんか探偵みたいでカッケーな!いいぜ、頼まれた!」 そう言いながら彼女は写真を奪い取り、執務室から飛び出して行った。 上機嫌なのは良いことだが、写真は絶対に燃やさないでほしい。 しかし誰もが能力に癖があり、実力が発揮できる環境は限られる。 汎用的に活躍できる人材は欠乏しているのが現状だ。 今のところはそれでも何とかなっているが、いつかはそれも限界を迎えるだろう。 ユニークスキルはもちろん尊ばれるべきだが、ベーシックスキルも同じぐらい大切だ。 基礎をなくして応用無し。 そして人事は常に3手先を読まなければいけない。 何とかしてエイヤフィヤトラのような人材をスカウトしないと、後々ロドスは手痛い損失を生むだろう。 自分もドクターとしての権限を活用し、彼女を呼び込むことに決めた。 人事部に予算を回し、有能な術師を採用するべく大量の募集をかけたが、めぼしい成果は出なかった。 基準を満たさない履歴書の山ができただけ。 この損失は大きい。 加えて2度も人事予算を申請したせいで、ケルシー医師から冷たい目で見られてしまった。 会計部門を統括しているのは彼女だ。 今後の業務に影響するのは間違いないだろう。 声色に全く覇気がない。 もう結果が分かった。 調査が思った以上に進まなかったのがメンタルにキているようだ。 何も言わずにこちらに足を運んでくると、そのまま仕事机に腰を下ろした。 非常に行儀が悪い。 フィリオプシスはともかく、先日サイレンスにはエイヤフィヤトラの写真を見せていた。 その時はかなりの好感触だった筈だ。 きっと自分が訊いてもはぐらかされるだろう。 それに、ここで彼女を悪く言うのはまずい。 確実にイフリータを怒らせる。 敢えて口を噤んだ。 ロドスの情報網を甘く見ない方がいい。 彼らは各地を飛び回りながら、日々有用なオペレーター候補を探しているんだ。 それにエイヤの情報を提供してくれたのは、その筋では名のある調査員なんだぞ」 「えぇ~本当か~?嘘臭ぇ、きっとデマを掴まされたんだぜ」 ここまで進展が無いと彼女のぼやきにも言い返せない。 それにエイヤフィヤトラの情報を掴んでくれた調査員は確かに優秀だったが、ちょうど5日前にロドスを退職している。 情報の真偽は闇の中だ。 「そういえばアーススピリットの反応はどうだった?」 「アイツも一緒だぜ。 何にも喋らない。 つまんねぇ」 写真は返すわと投げ渡された。 渡す前と比べて所々焦げ跡がある。 今のイフリータの機嫌を如実に表していた。 優しく肩を叩いて机から立つように促した。 「イフリータ、今日はご苦労だったな。 オレサマ疲れちまった」 「たくさん働いたからな。 よく食べてよく休むように。 最後はかなり不機嫌だったが、上手くいかないことを理由に暴れ回らないだけマシだった。 どこかの映画でそう聞いた。 イフリータを見送った後、秘書の目を盗んで執務室を抜け出していた。 どうしてもエイヤフィヤトラの情報が欲しい。 若しくは彼女に匹敵するレベルの術師の情報が欲しい。 そこで自分はロドスの職員に聞き込みを開始したのだ。 オペレーターはもちろんのこと、出入りの業者や事務方の職員にも情報提供をお願いした。 やはり自分で取りに行く姿勢が無いと幸運は訪れない。 どぶ板だが希望を信じて調査を行った。 イフリータの言った通り、どの職員に話を聞いてもだんまりだ。 全員が口を揃えたように『知らない』と言う。 カランド貿易やペンギン急便といった、顔が広い組織に縁のあるオペレーターにも話を伺ったが、結果は変わらなかった。 どれだけ粘っても全く釣れない。 もう予算も人脈もない。 八方塞がりでどうしようもなくなった。 それに調査で歩き回ったので疲れてしまった。 戻ればきっと秘書から雷が落ちる。 書類地獄も嫌だ。 中々前向きな気持ちになれない。 自分は執務室に戻らず、基地の廊下の端に座り込んだ。 携帯端末を覗き見ると、秘書からの催促メールが飛んでいる。 ここから仕事に戻るためには後10分程歩かなければならない。 億劫だった。 幸いなことに、ここの廊下は人気がない。 もう少しここにいてもばれないはず。 メールは見てないことにしよう。 エイヤフィヤトラの件以外は喫緊の仕事はないはずだ。 もうしばらく時間を潰す。 そう腹に決めた時だった。 角を曲がって来たドローンがこちらに気付かず、自転車のような速度でぶつかってきたのだ。 鈍い痛みが全身に広がる。 ドローンはゴミ箱を運んでいたようで、中からシュレッダーで裁断した書類ゴミをぶちまけてしまう。 そうか、今の時間は基地内清掃があったんだった。 廊下一杯に塵紙が吹雪いていく。 自分の衣服にも紙片が付いてしまった。 慌てて手を伸ばし、その切れ端を掴み取る。 シュレッダーは与えられた仕事の通りに書類をバラバラにしたみたいだが、自分には運があった。 紙片に残った文字は特徴的だった。 お陰で元々どのような書類だったのかが類推できたのだ。 この紙はロドスが有用だと見込んだ人材の採用通知や、昇進証明書のようなフォーマルな時にしか使わない。 そうなると、この紙に書かれていた内容も想像がつく。 術師の求人票だ。 卓越した能力を持った人材を採用する時にしか使わない特別な書類。 即ちレア中のレア。 自分もイフリータを受け入れた時にしか見たことが無い。 居ても経ってもいられない。 塵紙が散乱する廊下にしゃがみ込み、残りの切れ端を探しはじめた時だった。 思わず飛び上がってしまう。 先程までの集中力も霧散してしまった。 ここまで驚くとは思わなかったのか、彼女の心配そうな顔が覗いていていた。 ぼんやりしていた」 「いいえ、大したことじゃありません。 何か体調に変化があればすぐに仰って下さいね」 そう言いながら秘書の少女は儚げな笑みを零す。 記憶を失った自分に手を差し伸べてくれた少女。 CEOのとして重責を一身に背負い、鉱石病撲滅のため懸命に進み続ける彼女。 その姿はロドスの象徴だった。 「まだ片付いていないお仕事があります。 早く戻りましょう」 そう、彼女は感染者達の希望であり、ロドスの旗頭。 「ほら、こんなところで座り込んでないで、早く立って下さい。 直感だった。 今彼女に携帯を見せるのはマズい気がした。 アーミヤは自分を見逃すつもりは無いようだ。 このままだと何もできないまま執務室に閉じ込められ、仕事に忙殺されるだろう。 それだけは嫌だ。 何か適当な言い訳を考えようとした時、1つの案が浮かんだ。 そうだ、CEOであるアーミヤにエイヤフィヤトラの採用を願えばいい。 ロドスでは彼女以上に権力を持つ者はいない。 彼女が動けば、きっとエイヤフィヤトラは来てくれる。 加えてアーミヤは数少ない術師オペレーターでもある。 レユニオンとの戦いにおいての理解も深い。 彼女のように柔軟に対応できる術師がもう1人いれば、戦況は大いに変わる筈だ。 ロドスの現状を説明すればきっと分かってくれるだろう。 「確かにイフリータは執務室にやってきたが、別に遊んでいた訳ではないよ。 その確信を得ながら、意気揚々と彼女に語りはじめた。 早急に彼女をスカウトし、戦線の補強をしなければならない」 その後、自分は約10分間に渡って術師の必要性を説いた。 対応力のある術師の増強が今後の活動をより良いものにすると何度も力説した。 術師がいれば前線で身体を張るオペレーターも、より安全に戦える。 アーミヤは新しい術師の採用に否定的だったのだ。 声色もどこか冷たい。 動揺で言葉が詰まる。 ペースが彼女に取られそうだ。 「そんなことはない。 彼女のアーツは卓越したものがある。 きっと力になってくれる筈だ」 「今のロドスで十分です」 「彼女は火山学者だ。 天災の知識も豊富にある。 報告書によると聴覚障害を持っているらしい。 ロドスは一刻も早く彼女を保護する使命がある」 「いい加減にしてください」 取り付く島もない。 そのうえ彼女の強い言葉で否定されてしまった。 普段の穏やかな彼女とは似ても似つかない異様な雰囲気にたじろいでしまう。 そのままアーミヤに距離を詰められ、両手を掴まれる。 「新しい人を雇うより、まずは目の前にある仕事を片付けるべきです。 書類を溜めてばかりのドクターが言っても全く説得力がありません」 まるで縋り付くような力で腕を引き込んでくる。 視線が定まらず、心臓を掴まれたような心地がした。 「それに、今のロドスには術師がいないわけではありません。 暗い笑み。 深淵のような瞳が近づいてくる。 自分はあまりの異質さに動けない。 両手は自分のうなじや首の根本を優しく、丁寧に撫でていく。 その手つきは蠱惑的で、まるで愛撫のようであった。 少し自分が力を入れてしまえば砕け散ってしまいそうな程の儚さを秘めている。 君が一生懸命にロドスを引っ張っていることは知っている。 にっこりと微笑みながら両腕が戻っていく。 先程の緊張感から解放され、心に余裕が戻って来る。 それでも自分は彼女の瞳から目が離せない。 まるで強い力に縛られているみたいだった。 その通りだ。 アーミヤの、言う通りだ」 そうだ。 働かなければ。 忘れていたのだ。 自分はロドスのドクターだ。 アーミヤの言う通りにしなければ。 苦しんでいる感染者の為に働かなければ。 あぁ、そうだ。 エイヤフィヤトラを雇うなんてもってのほかだ。 新しい誰かを雇うより、まずは今いるみんなの為に働かなくてはいけない。 そのために働くんだ。 労働は素晴らしいものなんだ。 あぁ素晴らしい素晴らしい。 「ふふっ、ドクターがやる気になってくれて私は嬉しいです」 「これもみんなのためだ。 さぁ行こう」 そのまま自分はアーミヤに連れて行かれ、日が暮れるまで仕事に没頭した。 幸せな時間だった。 いつ手放したのだろうか。 握り締めていた掌には、黒い砂がこびり付いていただけだった。 それも、もうどうでも良かった。 ドクターにはお部屋で寝てもらいました。 明日も早いです。 私も早く寝ないといけませんね。 かつん、かつん、と暗い廊下には私の足音だけが響きます。 次はもっと念入りにやらないと。 仕事に戻ってから然りにポケット中を探していましたね。 かわいいです。 手を貸した隙にアーツで消してしまいました。 残りはもっと切り刻んで、丸ごと燃やしてしまわないと。 そして私にはドクターが必要です。 絶対にあなたは来れませんよ。 確かにあなたは本当に才能のある方です。 きっとロドスに多大な貢献をしてくれるでしょう。 ドクターだけが私の全てなんです。 見知った方の声でした。 すべてはロドスのため。 そしてドクターのためなんです。 あらゆる手を尽くして、ドクターと私のロドスを守ります。 絶対に誰にも渡さない。 記憶を失ってまで戻ってきか彼を、今度こそ私のものにして見せる。 そのためにはどんな障害も排除します。 その選択が、ドクターの望まないものだとしても。 【兎は山羊を許さない】.

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#1 火種

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炎博 はねている。 ドクターはゆっくりとまばたきしながら、エンカクの髪の一部を眺めてそう思った。 いつからそうしていたのかは定かではない。 ずっと前から見つめていた気もする。 少し気だるい腕を持ち上げて、そこを撫で付け、他の髪に紛れさせるようにしたが、男のざんばら切られた硬い髪は頑固で、小さな寝癖はすぐにひょいと毛束を割って飛び出してきた。 「……なにを、している」 エンカクの少し掠れた声が聞く。 ドクターは口を開いて「はねているから、」そう返そうとしたが、喉がからからでうまく一音めが出なかった。 ので、答えるのをやめ、背を猫のように丸めて、エンカクの胸元に鼻を押し付けた。 深呼吸し、唾を飲みこみ、ようやく口が開くが、ドクターはもう説明する意欲を感じず、「なんでもないよ」とだけ言った。 眠たげに目を瞬かせるエンカクの腕が背を掬い、ドクターの体はほとんど抱え込まれる。 背後のサイドテーブルに置かれたPRTS端末に彼の手が伸び、たすたすフリックする音がする。 時間を確認しているようだ。 「まだ起きるには早いか?」 「三時半だ」 「ぜんぜん寝てないじゃないか……」 「ああ。 もう一度寝よう」 欠伸をしながらエンカクの剥き出しの皮膚に顔を埋める。 前は、この男からは常に血のにおいがするに違いないと思っていたが、そんなことはなかった。 三時半。 ならばもう今日だけで三時間半一緒に過ごしているということ。 ドクターは満ち足りた気持ちになった。 さっきまで一つになっていたことをふと思い出し、ふふふと笑う。 「何だ」エンカクが問う「何がおかしい……」声が眠たげで、見上げれば目も眠たげに細められていて、自販機みたいな身長の男が妙に可愛く思える。 「別に、ただ、なんだか変だから」 互いの素肌がただ触れていることが。 約束もなく現れるエンカクはいつも容赦がないし、体力のないドクターはあっという間にバテてしまい、だいたい翌朝一人で起きるまで目を覚まさない。 エンカクは朝方に出ていっているらしいから、こういう時間は稀だった。 「変か」 「変だよ」 「そうか」 「慣れたいな」 「……、なら、もう少し」 もう少し遅くまで、ここにいるようにする。 眠たげで重たく落ちる小声がそう返ってくる。 その答えだけは予測していなかったドクターは驚いて目を見開いた。 サイドテーブルに置かれた灯りだけが照らす中、エンカクの瞼が落ちる。 すう、すうと深く長い呼吸がドクターの髪を揺らし、耳朶をくすぐる。 しばらく彼を見上げていたドクターもやがて目を閉じた。 男の腕の中、ドクターはもう少しと身を縮め、エンカクにくっつく。 ここに、己と彼の間に何があるのかドクターにはわからないが、己より少し高い体温が幸せだなあと思った。 今だけの、限られた、不幸の約束された幸。 秀麗な眉目は、眠りの中では余計な険が取れ、さらに綺麗だ。 どうしてたまに、そんなに優しくするんだろう。 慣れる日なんて結局は来ない気がしたし、覚束なくて不安になるような気もしていたけれど、つまりはそれだけドクターはもう、この男のことを。 布団をさばくように引っ剥がし、手を伸ばしてドクターの足に触ってみる。 下を触るほど冷たくなった。 「何を隠そう末端冷え性だからな」 「何も隠れてないだろう阿呆が……」 「あっためてよ」 乞うて絡む足に、エンカクはぐっと目許を険しくさせた。 それがエンカクなりの複雑な感情の表れであることはドクターも知るところのようで、要求は繰り返されない。 ドクターの知るとおり、エンカクは嫌なら嫌だと切って捨てるだけだ。 だからエンカクは結局、暫時のためらいの後、ドクターの足を撫で、布団を戻し、彼の熱い足でドクターの足をぎゅうと挟むようにした。 やりながら眉間に皺が寄るのを感じる。 覚悟をしていても冷たかった。 その顔が愉快だったらしく、ドクターは一度目を見開いた後ぎゅっと細めて笑った。 その顔が、エンカクはどうにも嫌いになれないし、一方で苛立たしくもなる。 何もかも間違っている気がしてくるからだ。 「笑うな」 「お前が私のために何かしてくれるんなら、そら笑うよ」 「やめてもいいんだぞ」 「やめないでよ、寂しいじゃん」 「……ちっ」 険しい顔での舌打ちに、ドクターはもっと笑った。 ドクターが笑うたびエンカクは不機嫌になる。 うそうそごめんと言ってドクターはエンカクの頭を抱え込んだがそれでもまだ笑ってやがる。 抱き込まれた胸と腹が引きつっているのを感じるので耐えようとはしているみたいだが、エンカクの苛立ちは止まらない。 「ごめんて。 寒い?」 「お前のせいでな。 運動不足の化身め」 「ふふふ」 「……、運動をしろ。 温かいものを食え」 「なにをとつぜん」 「冷えは万病の元だ。 そう聞いたことがある」 言ってすぐ後悔した。 まるでこいつを心配しているみたいだ。 ドクターも驚いた顔でぽかんと間抜け面をした。 エンカクはすぐ浅く息を吐いて、「忘れろ、どうでもいいことだ」と言った。 目の前でドクターの目許が緩み、薄く細められる。 その目に浮かんでいるものがなんであれ、向けられてはいけないものだと思った。 エンカクはぎくりと体を強張らせたが、ドクターは構わずエンカクを抱きしめた。 「まあ、病なんてつまらん理由で死ぬわけにはいかんよな」 「だから忘れろと」 「大丈夫。 私も戦場で死ぬからさ」 お前もそうなるんだろ。 そう言われたエンカクは虚を衝かれた顔で黙り込んでしまった。 嫌なら嫌と、違うなら違うと、はっきり言う己だから、沈黙の意味はわかってしまうだろう。 だから何か言わなきゃならないと思う。 けれど、心のなかにあるものは何一つ言葉にはできない気がした。 「死んでも一緒だよ」 それはきっと、一番言われたくないことだった。 少し泣きそうな目で、ドクターはまた笑った。 最初に言うことがそれなのかと、呆れた思いだった。 エンカクは昨夜、この指揮官を襲った。 眠る寸前を狙って押し入り、驚くドクターを押さえつけて一方的に遂げた。 理由は単純で、限界だったのだ、お仲間ごっこが。 こんなに長く続けるつもりはなかったし、もうとっくに全部終わっているべきだったのに、そうならなかったから。 ドクターは悲鳴の一つも上げなかったし、抵抗らしい抵抗をしなかった。 それにも腹が立ち、最中何度も心を折るようなことを言ったと思う。 記憶にあることもないこともあったが、いずれにせよドクターにまともな神経があったら三日三晩罵られても文句の言えないようなことをたくさん言った。 けれどドクターは何度か顔を逸らしつつも、一度も泣かなかった。 そのこともまた、やはり腹が立ったのだけれど。 「冷蔵庫にあるから、取って」 「……なぜ、俺が?」 「お前が容赦ないから、立てる気しないし」 そうじゃない。 なぜ俺がお前の思うように動くものと思うんだ。 そう聞いたら、「ええ?戦場では思うように動いてくれるくせに」と言われて、むしろエンカクの心が折れた。 まだ指揮官といちオペレーターのつもりか。 指揮官を襲う兵士なんてこの世に存在すると思っているのかこの愚か者は。 結局、エンカクはため息まじりに立ち上がり、冷蔵庫を開け、手前に入っていたペットボトルを手にとった。 ベッドに戻って差し出すと、ドクターは礼を言って受け取る。 「……お前のそれは、贖罪のつもりなのか?」 「うん?」 「お前、俺でなくとも、そうやって無抵抗なんだろう」 挙げ句終わった後、一本の水に礼を言うんだろ。 言われたドクターは目を見開いて固まってしまった。 「……なんなんだ、その顔」 「いや。 ……ううん、私はまだまだ君を測り間違ってたのかしら、それじゃなんていうか、自分だけを見てくれって愛の告白に聞こえる」 「殺すぞ」 「うん、ふふ、殺してもいいよ」 でもきっとそうはしない。 その言葉を聞いた途端、エンカクは瞼の裏がかっと燃えるような衝動的な怒りを覚え、ドクターの首をひっつかんでベッドに引きずり倒した。 ドクターはその瞬間こそ驚いた顔をしたものの、すぐに笑った。 水が溢れる。 ドクターは構わず、エンカクを見ている。 「君だけだよ」 「……何がだ」 「望むのも、殺されても構わないのも、君だけだよ」 ドクターの細い指が、エンカクの腕の太い筋をなぞるように辿る。 それは昨夜及んだ凶行の中にあったどんな行為より性的に思え、エンカクはたじろぐ。 ドクターの目は溶かした蜂蜜みたいにとろとろに潤み、頬は上気し、唇は何度も擦り合わされて真っ赤になっていた。 まるで、そう、恋に溶けたような顔だ。 待て、それじゃあまるで。 「ふふ、好きだよ、エンカク」 至極幸せそうにドクターが笑うのでエンカクはいよいよ途方に暮れ、その体の上でうなだれる羽目になった。 挙げ句その背をドクターが楽しげに擦るので、びしょびしょのベッドも己の人生も、何もかもがどうでもよくなってしまったのだった。 目覚めてすぐにわかった。 基地に窓はないが、代わりに非常灯の灯りの色が時間帯で変わる。 夜は橙色の灯りがじんわり灯っているが、朝になるにつれ白く染まっていく。 非常灯はもうとっくに白い。 起きなければと体を起こし、重い頭を振った。 冬の手前、今朝は少し寒い。 「(今日は……今日は、新しい輸送ルートの責任者とのミーティングがあって……そのまえに、アーミヤが会いたいって言ってたな)」 それから、短期の決済書類がいくつかあったから朝のうちに処理をしないと。 早く用意をしたほうがいい。 ドクターは覚悟を決め、ベッドから出ようとした。 ときだった。 背後、背中の向こうで寝ている男の固く太い尾が布団の中をくぐるように動いて、ドクターの胸の下を抱え込むようにぐっと締まった。 「……こら」 「まだ早いだろう……」 「まあ早いんだけどさ。 私は起きるよ」 「不許可」 「許可制なんかーい」 けたけた笑っていたが、尾だけでなく腕もすぐ参戦してきたので、結局ドクターは再度ベッドに引きずり込まれた。 いつになく強い力だ。 「寒いな……」 「何を、イェラグは比べ物にならないくらい寒いだろ」 「ふ、私もこちらに慣れたということさ。 ……それに」 私でなく、お前が冷えている。 シルバーアッシュはそう言ってドクターの体を抱き込む。 確かに一晩眠った体は冷たく冷え切っていて、シルバーアッシュの素肌とは全く温度が違った。 「やっぱり鍛えてると体温高いよなあ。 冷たくない?」 「平気だ。 慣れてるからな」 「それは、寒さに?低い体温に?」 言外に、他の誰かの存在を疑ったら、シルバーアッシュは喉を鳴らしてご機嫌に笑った。 「何を笑ってんだこんにゃろ」「お前が嫉妬めいたことを言うのは珍しい」「珍しかったらなんだ笑っていいのかコラァ」「いいや、ただお前の知らない顔を見るのは、いつだって嬉しいものだからな」はいはい完敗。 「あったまった」 「ああ……そうだな」 「もう起きる」 「不許可」 「なんでよ」 「私が寒いから」 嘘つけ。 そんな高い体温で、寒いわけがない。 そう思ったが、シルバーアッシュは変わらずドクターを強い力で抱え込み離さなかったので、ドクターは短く息を吐くと彼の肩口に額を押し付け黙り込んだ。

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炎博 はねている。 ドクターはゆっくりとまばたきしながら、エンカクの髪の一部を眺めてそう思った。 いつからそうしていたのかは定かではない。 ずっと前から見つめていた気もする。 少し気だるい腕を持ち上げて、そこを撫で付け、他の髪に紛れさせるようにしたが、男のざんばら切られた硬い髪は頑固で、小さな寝癖はすぐにひょいと毛束を割って飛び出してきた。 「……なにを、している」 エンカクの少し掠れた声が聞く。 ドクターは口を開いて「はねているから、」そう返そうとしたが、喉がからからでうまく一音めが出なかった。 ので、答えるのをやめ、背を猫のように丸めて、エンカクの胸元に鼻を押し付けた。 深呼吸し、唾を飲みこみ、ようやく口が開くが、ドクターはもう説明する意欲を感じず、「なんでもないよ」とだけ言った。 眠たげに目を瞬かせるエンカクの腕が背を掬い、ドクターの体はほとんど抱え込まれる。 背後のサイドテーブルに置かれたPRTS端末に彼の手が伸び、たすたすフリックする音がする。 時間を確認しているようだ。 「まだ起きるには早いか?」 「三時半だ」 「ぜんぜん寝てないじゃないか……」 「ああ。 もう一度寝よう」 欠伸をしながらエンカクの剥き出しの皮膚に顔を埋める。 前は、この男からは常に血のにおいがするに違いないと思っていたが、そんなことはなかった。 三時半。 ならばもう今日だけで三時間半一緒に過ごしているということ。 ドクターは満ち足りた気持ちになった。 さっきまで一つになっていたことをふと思い出し、ふふふと笑う。 「何だ」エンカクが問う「何がおかしい……」声が眠たげで、見上げれば目も眠たげに細められていて、自販機みたいな身長の男が妙に可愛く思える。 「別に、ただ、なんだか変だから」 互いの素肌がただ触れていることが。 約束もなく現れるエンカクはいつも容赦がないし、体力のないドクターはあっという間にバテてしまい、だいたい翌朝一人で起きるまで目を覚まさない。 エンカクは朝方に出ていっているらしいから、こういう時間は稀だった。 「変か」 「変だよ」 「そうか」 「慣れたいな」 「……、なら、もう少し」 もう少し遅くまで、ここにいるようにする。 眠たげで重たく落ちる小声がそう返ってくる。 その答えだけは予測していなかったドクターは驚いて目を見開いた。 サイドテーブルに置かれた灯りだけが照らす中、エンカクの瞼が落ちる。 すう、すうと深く長い呼吸がドクターの髪を揺らし、耳朶をくすぐる。 しばらく彼を見上げていたドクターもやがて目を閉じた。 男の腕の中、ドクターはもう少しと身を縮め、エンカクにくっつく。 ここに、己と彼の間に何があるのかドクターにはわからないが、己より少し高い体温が幸せだなあと思った。 今だけの、限られた、不幸の約束された幸。 秀麗な眉目は、眠りの中では余計な険が取れ、さらに綺麗だ。 どうしてたまに、そんなに優しくするんだろう。 慣れる日なんて結局は来ない気がしたし、覚束なくて不安になるような気もしていたけれど、つまりはそれだけドクターはもう、この男のことを。 布団をさばくように引っ剥がし、手を伸ばしてドクターの足に触ってみる。 下を触るほど冷たくなった。 「何を隠そう末端冷え性だからな」 「何も隠れてないだろう阿呆が……」 「あっためてよ」 乞うて絡む足に、エンカクはぐっと目許を険しくさせた。 それがエンカクなりの複雑な感情の表れであることはドクターも知るところのようで、要求は繰り返されない。 ドクターの知るとおり、エンカクは嫌なら嫌だと切って捨てるだけだ。 だからエンカクは結局、暫時のためらいの後、ドクターの足を撫で、布団を戻し、彼の熱い足でドクターの足をぎゅうと挟むようにした。 やりながら眉間に皺が寄るのを感じる。 覚悟をしていても冷たかった。 その顔が愉快だったらしく、ドクターは一度目を見開いた後ぎゅっと細めて笑った。 その顔が、エンカクはどうにも嫌いになれないし、一方で苛立たしくもなる。 何もかも間違っている気がしてくるからだ。 「笑うな」 「お前が私のために何かしてくれるんなら、そら笑うよ」 「やめてもいいんだぞ」 「やめないでよ、寂しいじゃん」 「……ちっ」 険しい顔での舌打ちに、ドクターはもっと笑った。 ドクターが笑うたびエンカクは不機嫌になる。 うそうそごめんと言ってドクターはエンカクの頭を抱え込んだがそれでもまだ笑ってやがる。 抱き込まれた胸と腹が引きつっているのを感じるので耐えようとはしているみたいだが、エンカクの苛立ちは止まらない。 「ごめんて。 寒い?」 「お前のせいでな。 運動不足の化身め」 「ふふふ」 「……、運動をしろ。 温かいものを食え」 「なにをとつぜん」 「冷えは万病の元だ。 そう聞いたことがある」 言ってすぐ後悔した。 まるでこいつを心配しているみたいだ。 ドクターも驚いた顔でぽかんと間抜け面をした。 エンカクはすぐ浅く息を吐いて、「忘れろ、どうでもいいことだ」と言った。 目の前でドクターの目許が緩み、薄く細められる。 その目に浮かんでいるものがなんであれ、向けられてはいけないものだと思った。 エンカクはぎくりと体を強張らせたが、ドクターは構わずエンカクを抱きしめた。 「まあ、病なんてつまらん理由で死ぬわけにはいかんよな」 「だから忘れろと」 「大丈夫。 私も戦場で死ぬからさ」 お前もそうなるんだろ。 そう言われたエンカクは虚を衝かれた顔で黙り込んでしまった。 嫌なら嫌と、違うなら違うと、はっきり言う己だから、沈黙の意味はわかってしまうだろう。 だから何か言わなきゃならないと思う。 けれど、心のなかにあるものは何一つ言葉にはできない気がした。 「死んでも一緒だよ」 それはきっと、一番言われたくないことだった。 少し泣きそうな目で、ドクターはまた笑った。 最初に言うことがそれなのかと、呆れた思いだった。 エンカクは昨夜、この指揮官を襲った。 眠る寸前を狙って押し入り、驚くドクターを押さえつけて一方的に遂げた。 理由は単純で、限界だったのだ、お仲間ごっこが。 こんなに長く続けるつもりはなかったし、もうとっくに全部終わっているべきだったのに、そうならなかったから。 ドクターは悲鳴の一つも上げなかったし、抵抗らしい抵抗をしなかった。 それにも腹が立ち、最中何度も心を折るようなことを言ったと思う。 記憶にあることもないこともあったが、いずれにせよドクターにまともな神経があったら三日三晩罵られても文句の言えないようなことをたくさん言った。 けれどドクターは何度か顔を逸らしつつも、一度も泣かなかった。 そのこともまた、やはり腹が立ったのだけれど。 「冷蔵庫にあるから、取って」 「……なぜ、俺が?」 「お前が容赦ないから、立てる気しないし」 そうじゃない。 なぜ俺がお前の思うように動くものと思うんだ。 そう聞いたら、「ええ?戦場では思うように動いてくれるくせに」と言われて、むしろエンカクの心が折れた。 まだ指揮官といちオペレーターのつもりか。 指揮官を襲う兵士なんてこの世に存在すると思っているのかこの愚か者は。 結局、エンカクはため息まじりに立ち上がり、冷蔵庫を開け、手前に入っていたペットボトルを手にとった。 ベッドに戻って差し出すと、ドクターは礼を言って受け取る。 「……お前のそれは、贖罪のつもりなのか?」 「うん?」 「お前、俺でなくとも、そうやって無抵抗なんだろう」 挙げ句終わった後、一本の水に礼を言うんだろ。 言われたドクターは目を見開いて固まってしまった。 「……なんなんだ、その顔」 「いや。 ……ううん、私はまだまだ君を測り間違ってたのかしら、それじゃなんていうか、自分だけを見てくれって愛の告白に聞こえる」 「殺すぞ」 「うん、ふふ、殺してもいいよ」 でもきっとそうはしない。 その言葉を聞いた途端、エンカクは瞼の裏がかっと燃えるような衝動的な怒りを覚え、ドクターの首をひっつかんでベッドに引きずり倒した。 ドクターはその瞬間こそ驚いた顔をしたものの、すぐに笑った。 水が溢れる。 ドクターは構わず、エンカクを見ている。 「君だけだよ」 「……何がだ」 「望むのも、殺されても構わないのも、君だけだよ」 ドクターの細い指が、エンカクの腕の太い筋をなぞるように辿る。 それは昨夜及んだ凶行の中にあったどんな行為より性的に思え、エンカクはたじろぐ。 ドクターの目は溶かした蜂蜜みたいにとろとろに潤み、頬は上気し、唇は何度も擦り合わされて真っ赤になっていた。 まるで、そう、恋に溶けたような顔だ。 待て、それじゃあまるで。 「ふふ、好きだよ、エンカク」 至極幸せそうにドクターが笑うのでエンカクはいよいよ途方に暮れ、その体の上でうなだれる羽目になった。 挙げ句その背をドクターが楽しげに擦るので、びしょびしょのベッドも己の人生も、何もかもがどうでもよくなってしまったのだった。 目覚めてすぐにわかった。 基地に窓はないが、代わりに非常灯の灯りの色が時間帯で変わる。 夜は橙色の灯りがじんわり灯っているが、朝になるにつれ白く染まっていく。 非常灯はもうとっくに白い。 起きなければと体を起こし、重い頭を振った。 冬の手前、今朝は少し寒い。 「(今日は……今日は、新しい輸送ルートの責任者とのミーティングがあって……そのまえに、アーミヤが会いたいって言ってたな)」 それから、短期の決済書類がいくつかあったから朝のうちに処理をしないと。 早く用意をしたほうがいい。 ドクターは覚悟を決め、ベッドから出ようとした。 ときだった。 背後、背中の向こうで寝ている男の固く太い尾が布団の中をくぐるように動いて、ドクターの胸の下を抱え込むようにぐっと締まった。 「……こら」 「まだ早いだろう……」 「まあ早いんだけどさ。 私は起きるよ」 「不許可」 「許可制なんかーい」 けたけた笑っていたが、尾だけでなく腕もすぐ参戦してきたので、結局ドクターは再度ベッドに引きずり込まれた。 いつになく強い力だ。 「寒いな……」 「何を、イェラグは比べ物にならないくらい寒いだろ」 「ふ、私もこちらに慣れたということさ。 ……それに」 私でなく、お前が冷えている。 シルバーアッシュはそう言ってドクターの体を抱き込む。 確かに一晩眠った体は冷たく冷え切っていて、シルバーアッシュの素肌とは全く温度が違った。 「やっぱり鍛えてると体温高いよなあ。 冷たくない?」 「平気だ。 慣れてるからな」 「それは、寒さに?低い体温に?」 言外に、他の誰かの存在を疑ったら、シルバーアッシュは喉を鳴らしてご機嫌に笑った。 「何を笑ってんだこんにゃろ」「お前が嫉妬めいたことを言うのは珍しい」「珍しかったらなんだ笑っていいのかコラァ」「いいや、ただお前の知らない顔を見るのは、いつだって嬉しいものだからな」はいはい完敗。 「あったまった」 「ああ……そうだな」 「もう起きる」 「不許可」 「なんでよ」 「私が寒いから」 嘘つけ。 そんな高い体温で、寒いわけがない。 そう思ったが、シルバーアッシュは変わらずドクターを強い力で抱え込み離さなかったので、ドクターは短く息を吐くと彼の肩口に額を押し付け黙り込んだ。

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