薬屋 の ひとりごと pixiv。 #薬屋のひとりごと #壬氏 必要十分条件

#薬屋のひとりごと 慈母

薬屋 の ひとりごと pixiv

「ねぇ皆さま、皇弟妃に相応しい素養は何だと思われます?」 (知らないし興味ない) 大層美しく着飾った女の投げかけた疑問に、猫猫は団扇の陰で嘆息した。 [chapter:必要要素] 珍しく早く仕事を上がれた夕方。 癖毛眼鏡の提示したいい酒と生薬に釣られてのこのこ宴席についてきてみれば、どうやらそれはかの麗しき皇弟殿下の妃候補が集う宴であったらしい。 騙されたと思ったが時すでに遅し。 現在最有力候補は羅家の一人娘と目されているらしく、羅半の傍についていた猫猫はあっという間に目を付けられ、あれよあれよという間に他の妃候補たちの団体に組み込まれてしまった。 注目という名の視線の刃が四方八方から突き刺さり、壁の花にはなれそうもない。 果たしてどんな集団私刑を加えられるかと最初こそ身構えたが、流石は皇族の妃として名の上がるご令嬢たちだ。 最近になって突然存在の知られるようになった謎多き変人一族の小娘は当然ながら皆の興味関心の的だったようだが、人見知りの無口設定を通していれば誰も無理に話しかけたりはしてこない。 仮にも羅の家の一人として扱われるのは虫唾が走るほどの苦行であるが、このまま時間が経つのを待つほかあるまい。 あとで生薬の追加請求でもしないと、とてもじゃないがやっていられない。 そう思っていたところで冒頭の台詞である。 発した女はどこの家の誰だったか。 さっぱり覚えていないのだが、どうもこれまでの会話を聞く限りはここにいる令嬢たちの中でもかなり上位の立ち位置であるらしい。 この家の娘なのかもしれない。 百合の髪飾りを付けた美女で、果実もなかなかの上物をお持ちだ。 気品ある出で立ちは皇弟妃候補に相応しいそれである。 堂々たるその視線は全体を見渡すようでいて実のところ猫猫に向けられているらしく、『なんで貴女が』という心の声が聞こえてくるかのようだ。 思わず少し肩を竦める。 「そうですわね…まず、容貌の美しさは必要でしょう?何といっても、月の君のお傍に仕えるのですもの。 」 猫猫の二つ隣に座っていた女がたおやかに笑ってそう言った。 成程、確かにこの場の美しいご令嬢たちの中でも最上級の美人である。 あくまでこの中では、の話だが。 そしてこの女もさり気なく横目で猫猫をねめつけてくる。 涼やかな眦にひかれた釣りあがった紅が怖い。 「舞踏や楽器の才も必要だと思いますわ。 」 今度は百合の女の隣に座っていた可愛らしい少女だ。 やたらとひだの多い装いと纏足でない足は舞踊を嗜むが故のものだろうか。 純粋無垢を絵にかいたような顔をしているが、猫猫を睨む視線だけは立派に女のそれだった。 「知識や教養も大事ではありませんこと?」 「打てば響くような賢さだって重要ですわ。 」 「会話が上手くないと退屈させてしまうでしょう?」 「交友関係も広くないと。 」 居並ぶ姫君たちは次から次へと自分の考える素養を並べる。 堂々とした挑戦的な視線と口調からするにどれも発言者の自慢の点なのだろう。 勿論猫猫には自慢できる点もなければ欲しいとも思わない。 ここでもだんまりを決め込もうと卓の胡桃を手に取った瞬間。 どういうわけか、百合の女と目が合った。 仮面のように笑顔を保っていた女の顔が一層笑みを深める。 その仮面の向こうの悪魔が透けて見えるようで、背筋に悪寒が走る。 「猫猫さまは、どう思われます?」 何ということだろう。 名乗った覚えもないのに名を知られている。 流石の猫猫もこの場で『どうでもいいです』とは言えない。 どう切り抜けようかと視線を彷徨わせると、それを引っ込み思案な性格とでも捉えたのだろう、百合の女が先に口を開いた。 「わたくしは、月の君への忠誠と敬愛が一番だと思っておりますの。 」 豊かな胸に手を当て、心酔したようにうっとりとした顔で百合の女はそう言った。 その視線はどこか虚空に皇弟の姿を見ているらしい。 ほう、とどこからともなくため息が聞こえた。 自分の自慢を並べるのではない、皇弟のことを第一に据える答え。 流石自ら投げかけた質問なだけあって、その発言の姿から内容から百点満点の回答だった。 そして同時に、とんでもなく怖気のする回答だ。 忠誠?敬愛?それは確かに貴き方に仕える者として大事な素養であろう。 梨花妃はそれが顕著であったし、玉葉后にもうかがえる感情だった。 でも、それはあくまで皇帝の場合だ。 皇弟は違う。 皇弟は、壬氏は、きっとそんな夫婦関係は望まない。 壬氏はどこまでも実直で莫迦真面目で、そしてとても繊細な人だ。 自分の一言で人生の一変する下々の者に罪悪感を抱き、自分の力の及ばないことに胸を痛め、必要以上の苦しみを自らに課すような、皇族らしからぬ人なのだ。 「恐れながら、私が思いますに、月の君にそのようなお妃は不要かと思われます。 」 自分でも不思議なほど、するすると言葉が滑り出る。 壬氏に、百合の女の理想とする臣下のような妻は必要ない。 むしろその存在は彼にとって錘となり、苦しみの元にもなるだろう。 望みもしない万人の上に苦しみながら立ち続ける彼に必要なのは、足元に跪く妻ではなくて、隣に立って支える妻だ。 彼の痛みを解し、ときに引き受け、分かち合い、赦し、その心を癒して奮い立たせる。 そういうことのできる女こそ、きっと壬氏には相応しい。 「私の目に映る月の君は、あなた様の目に映る月の君とは違うようです。 」 この女の目に映る皇弟は、きっとどこまでも完璧な理想の君なのだろう。 美しく、優しく、優雅で凛々しい公子様なのだ。 構ってもらえないと子供っぽく拗ね、少年のように無垢に笑い、求婚すらやけくそでかますような粘着質変態男ではない。 捨てられた子犬のような顔も、飢えた野良犬のような顔も、きっとここの女たちは誰一人見たことがないのだ。 「美しい御心を持ち、同じものを楽しみ、同じ目線で物事を見て、平等の立場で言葉を交わし、他の男に目移りせず、あの方一人を生涯愛するお方であれば、それがきっと最もふさわしいお方でありましょう。 」 あの人は、あなた方の思っているよりずっと不完全な人間だ。 だからもっと普通の、あの方の支えになれるお妃になってあげてくれ。 猫猫としてはそんな言葉を伝えたかった。 愛情のわからない下賎の身の娘では、到底そんな女にはなれないしなるつもりもない。 けれど彼女たちのうち誰か一人でもそういう妃になろうとしてくれれば、あの孤独な天仙もきっと報われる。 卓の上の胡桃を見つめていた視線を上げると、令嬢たちは一様にポカンとしていた。 突然饒舌に話し出したものだから呆気に取られているのだろうか。 内心焦りながら視線を回すと、猫猫と目が合った瞬間、あの百合の女の目に確かな怒りが宿ったのが分かった。 「貴女…無礼だと思わないの!?」 女が酒のなみなみと注がれた盃を手に取る。 こちらに向かって構える仕草に咄嗟に立ち上がって身を引こうとした瞬間、誰かの胸に引き寄せられた。 顔の前に何者かの袖がかけられ、間髪入れずに液体の飛び散る音と盃の割れる音が続く。 「これはこれは、随分楽しそうなことをしておられるようだ」 一瞬の静寂ののち、どこか弾んだような蜂蜜の声がひびいた。 上品な白檀と酒精の匂いが漂う。 猫猫の顔を隠すように覆っていた男の袖が取り払われれば、百合の女を含めた令嬢たちの顔が蕩けたように赤くなっていた。 振り返る気すら失せるほど、わかりやすい。 「つ、月の君…」 黙って見ていた女たちが慌てて立ち上がり、少し遅れて百合の女も礼をとる。 猫猫はと言えば未だ解放すらされていない。 いつの間にか、皇弟殿下がお出ましになっていた。 周囲には見慣れた従者の姿も、癖毛眼鏡の姿も、それ以外の何やら高官らしい招待客たちの姿もあった。 令嬢同士の張り合いに熱中するあまり、誰も周囲に気が回らなかったようだ。 百合の女のこぼした声を華麗に無視し、壬氏は猫猫の腹に手を回して体を密着させてくる。 やめろ離せ、という念と共に睨み上げると、それはそれは嬉しそうな笑顔とかち合った。 蛞蝓を見るような目になったのは言うまでもない。 「私の妃の素養について、だったかな。 結論としてはどうなった?」 令嬢たち全員への問いかけのように見せかけながら、その実視線は猫猫だけを熱っぽく見つめている。 静まり返った周囲の視線が鬼のようだ。 本気でやめてほしい。 殺す気か。 「…結論は出ておりません。 どのようなお妃がいいかなど、本来私共に決められるような事柄ではございませんので。 」 冷淡に返しながらぐいぐいと筋肉質な腕や胸板を押してみるが、当然ながらびくともしない。 何が嬉しいのか余計に顔を綻ばせるだけに終わってしまう。 「それより月の君、お袖が濡れています。 お風邪を召される前に着替えられたほうがよろしいかと。 お怪我はないですか?」 「うん?ああ…そうだな。 怪我はないと思うが…」 先ほど猫猫の顔めがけてぶちまけられた酒から猫猫を庇ったせいで、壬氏の上等な絹の衣にシミができていた。 幸いなことに怪我は全くしていないようだが、絹の汚れ落としは時間勝負だ。 壬氏がこの程度で風邪をひくなんてつゆほども思っちゃいないけれど、一刻も早くこのシミを取り除いてしまいたい。 壬氏ほどの身分となれば汚れた着物などあっさり捨てても構わないのだろうとは思いつつ、貧乏性の猫猫には高級な絹が汚れていく様を黙って見ていることなどできなかった。 「殿下、先ほどは申し訳ありませんでした。 私としたことがつい取り乱して…」 いつの間にか気を取り直した百合の女が、さも気落ちした様子で手巾を取り出して壬氏の袖を拭おうとする。 皇弟に盃を投げるなどという暴挙に出ながら周囲の誰も取り押さえようとしないのは、それだけ身分の高い家柄なのか、それとも彼らもこの場の雰囲気に戸惑っているだけなのか。 女はひらひらとうねる袖を駆使してさり気なく華奢な手首を強調し、潤んだ上目遣いも忘れない。 後宮の妃にも劣らぬその仕草や気遣いは素晴らしいのだが、いかんせん拭い方がなってなかった。 「あの、絹はそんなにこすってはいけませんよ。 貸してください。 」 「え、あ、え?」 突然の乱入に困惑する女から手巾を奪うと、猫猫はそっとシミに手巾を当てる。 絹は擦れに弱く、しかも汚れは完全に染み込む前に水気を取ってしまう必要がある。 妓女や妃のおしゃれ着洗いで鍛えられた猫猫にしてみれば常識でも、自分で着物を洗うことなど未来永劫ないだろう深窓の令嬢は知らなくて当然だろう。 色素を全部抜き取るまでにはさすがに至らなかったが、だいぶ目立たなくはなったし、あとは早めにぬるま湯を使って落とせばかなり薄くなる。 残りは水蓮の仕事だ。 「月の君、お着替えの準備が整いました。 」 丁度よいタイミングで馬閃が声をかけてくる。 後ろに控えるのはこの家の侍女だろうか。 猫猫はここで御役御免。 宴もすっかり興醒めしたようだし、さっさと帰らせていただくに限る。 そう思って幾分緩んだ腕から抜け出そうとしたのに、どういうわけか腕の拘束はぎゅっと締まってしまった。 「…お早めに着替えなさってください。 」 「ああ、そうする。 」 じゃあ離せよ。 念を込めて猫猫が睨み上げようとすると、ニコニコと妖しげな微笑をたたえた玉顔と目が合った。 この顔を見て面倒ごとに巻き込まれなかった覚えがない。 思わず顔が引きつる猫猫とは対照的に、壬氏の顔は楽しげだ。 薄い腹に回っていた手が移動し、今度は腰を抱き寄せるように体の向きを変えられる。 嫌な予感に顔をゆがませる猫猫に、壬氏は笑いを堪えながらすました顔だ。 それが余計に腹立たしい。 「おまえを庇って濡れた袖だからな。 更衣を手伝ってもらおうか。 」 高らかな宣言がなされ、周囲から悲鳴が上がる。 信じられない、許せない、そんな言葉すらちらほら聞こえてくるが、猫猫だって信じたくないし許したくない。 しかし馬閃は悟りを通り越してさっさとしろとでも言いたげな顔を見せ、視界の端のもじゃ眼鏡は嬉しそうに手を振っている。 麗しの貴人はと言えば早速猫猫の腰を引きながら歩みを進めようとする始末。 猫猫に差し伸べられる救いの手はないらしい。 諦めのため息をこぼした猫猫の耳元に、ふわりと黒い絹糸が触れる。 「ありがとう。 嬉しかった。 」 子犬とも少年ともつかない、二十歳の男にはやや幼いほどの嬉しそうな笑みに、ふいと猫猫は視線を逸らす。 そういえば、つい最近まで皇弟は酷い火傷痕を持った根暗な引きこもりとされていたのだったか。 それならあの女の言う忠誠とは、敬愛とは、果たして何に向けてのものだったのだろう。 彼女たちの中の皇弟とは、いったい何だったのだろう。 「…お着物のことでしょうか?」 面倒なことは考えたくない。 そんな猫猫では、下手くそにしらばっくれるのが関の山だった。

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薬屋のひとりごと35話(最新話)のネタバレと感想!【毎月更新】

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湯浴みの手伝いをしていたら、そのまま湯殿で押し倒された。 明かりはあるし、床は固く濡れているし、そもそもここはそういう用途の場所じゃないぞ、この変態め!と心の中で毒づきながら抵抗していたら、思いがけないことを言われた。 「いい目をするようになったよな」 「は?」 「飢えた雌の目だ」 「は?」 努めて白けた目をしたつもりだが、そう言われた瞬間になぜかカーッと顔が熱くなり、余裕を失って結局好きにされた。 その時以来、自分がおかしい。 婚儀を終えて諸々が落ち着いてきたこの頃、夫となった瑞月の多忙もまた始まった。 当初は毎夜早く帰ってきては求められる上に、そのしつこさに疲弊し、帰って来るなと内心思ったくらいだったが、最近その願いが通じたのか、起きている時間に顔を合わせる日が減った。 (きっとそのせいだ) ふと気付くと、雑巾を握り締めたまま、湯殿の一件を思い出し、ぼんやりしている自分がいた。 (昼間っから何を…) また、カッと顔が火照る。 頭を振って、火照りの元となった記憶を頭から追い出すが、気付くとまた思考が逆戻りしている。 お陰で掃除が進まない。 (水蓮様に怒られる~) 必死に目前の拭き掃除に集中し、何とか事無きを得たが、数日経ってもその傾向は変わらず、むしろひどくなっていった。 何しろ、夫を思い出すだけで、顔が熱くなるようになってきたのだ。 いや、むしろそれが普通の反応とすら言える至高の美貌の持ち主なのだが、今まで無効だったはずの自分がなぜこうなっているのか。 幸い、まともに顔を合わせていないので、特に問題にはなっていないが、毎日の掃除洗濯等をこなす能率は下がっており、1人相撲状態で苦労している。 誰かに相談出来れば良いのだが、相談するのも気恥ずかしい。 と思っていたら、 「小猫、最近ぼーっとしているけど、大丈夫?やっぱり慣れない生活に疲れた?」 バッチリ水蓮様に心配された。 「大丈夫です。 たぶん」 そうとしか言えない。 「でも、しょっちゅう顔が赤いし、熱でもあるんじゃない?小猫、自分のことには鈍そうだもの」 そう言って、額に手を当てられる。 「いえ、熱はないと…」 よくわからないが、アワアワと慌ててしまう。 「じゃあ、何で顔が赤いのかしら?」 そう言われた時、運悪く、また熱が顔に上ってきた。 「どうしたの?真っ赤?」 「自分でもわからないんです。 でも、とにかく気恥ずかしいので、そっとしておいて頂いた方が、早く引くかと…」 「気恥ずかしい?」 一瞬困惑顔になった水蓮様だが、次の瞬間には、何かに気付いた様子で、ニヤニヤ笑いになる。 「わかった。 そっとしておいてあげましょう」 そのしたり顔に、また熱が上がった。 そして、遂に、まともな時間に旦那様が帰ってきてしまった。 「お帰りなさいませ」 顔を伏せて、何とかやり過ごす。 「やっとお前の声が聞けたな」 嬉しそうな甘い声に、また顔が火照るのを感じ、顔を上げられない。 「どうした?」 そりゃそうだ。 不審がられる。 それはわかっているが、居たたまれず逃げ出してしまった。 さぞかし、困惑させただろう。 が、耐えられない。 さあ、何処に逃げ込もう、と、ちょっと立ち止まった途端、グイッと肩と腕を捕まえられた。 「何だ?何か怒らせ…って、顔、真っ赤…」 遂にバレた。 どうしていいかわからず、そのままその場に蹲った。 結局捕まったまま、寝室へ連行され、尋問を受けた。 「どうしたんだ?何故逃げる?何故そんなに顔が赤い?」 「わかりません」 俯いたまま、そう答えた。 「熱でもあるのか?」 水蓮様と同じ心配をされ、額に手を当てられるが、ついでに顔を覗き込まれ、また、顔に熱が集まる。 「うわあぁぁ」 思わず顔を覆って突っ伏すと、呆気にとられた雰囲気が伝わってくる。 「すみません。 ちょっと1人でほっておいてもらえると、治ると思うので…」 必死にそう訴えるが、相手は動く気配がない。 「照れて、る?いや、お前に限ってそれは…」 「わあぁぁぁ!」 「え、本当に?」 雲行きが怪しい。 声が嬉しそうに変わった。 恐れた通り、無理矢理顔を覆っていた手を引き剥がされ、かなり赤くのぼせているだろう顔をまともに見られる。 勿論、耐えられず、こちらはぎゅっと目を瞑ったままだ。 「目を開けろ」 「無理です」 「いいから、開けてみろ」 「嫌です」 「何故だ?」 「余計に顔が火照ります。 動悸もします。 無理です」 ククク、と、忍び笑いが聞こえてくる。 こっちは必死だというのに、こんちくしょう! 「笑わないでください!こっちは必死なんです!」 「いつからだ?」 「はい?」 「いつからそうなった?」 「えっと…」 元になった湯殿の一件を思い出し、また火照りがひどくなる。 「最後に顔を合わせた時は、まだこうではなかったはずだから…」 勝手に遡られている。 まずい。 「あぁ、あの日だな」 見えないのに、ニヤリと笑っているのだろうと推測がつく。 「そんなに、湯殿が恥ずかしかったか?」 「違います!」 「まぁ、いい。 それは些細なことだ。 何でそうなっているか、教えてやろうか?」 「結構です!」 余計に恥ずかしいことを言われる気がして、必死に首を振ったが… 「そういうのを、恋煩いという」 「違います」 「違わない」 「うぅ…」 薄々わかっていたが、告知を受けるとやはり衝撃を覚える。 「面白いな。 普通は、恋から始まって、落ち着いた頃に結婚に至るものだが、逆だ」 「もう、わかりましたから、勘弁してください。 1人にしてください」 恥ずかしくて死にそうだ。 「嫌だ。 かわいいからな」 「もう、耐えられないので、いっそ殺してください。 毒がいいです」 「そうか、わかった」 あれ?ヤケに素直に…と思ったが、口の中へ流し込まれたのは、明らかに甘い吐息と、艶めかしい舌の感触で… 「どこが毒ですか…」 「毒だ。 60年くらいかけて効いてくる」 「絶対違う!」 バタバタと暴れて抗議を示すが、大きな体躯の下に敷かれた痩せぎすの体では、反撃の効力はない。 「ちょっとは我慢しろ。 俺は年単位で煩って、だいぶ苦しんだんだ」 「うぅ…」 「猫猫…」 優しく名を呼ばれ、何となく心が落ち着く。 「やっと煩ってくれたなら、本望だ」 「病名がわかったなら、治します!」 「無理だろ、だって…」 頬に掌の感触がつたう。 「恋につける薬は無いって、昔から言うぞ」 「うわあぁぁー!」 恋煩いが落ち着くまで、この後結構な期間苦しんだ。

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薬屋のひとりごと35話(最新話)のネタバレと感想!【毎月更新】

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湯浴みの手伝いをしていたら、そのまま湯殿で押し倒された。 明かりはあるし、床は固く濡れているし、そもそもここはそういう用途の場所じゃないぞ、この変態め!と心の中で毒づきながら抵抗していたら、思いがけないことを言われた。 「いい目をするようになったよな」 「は?」 「飢えた雌の目だ」 「は?」 努めて白けた目をしたつもりだが、そう言われた瞬間になぜかカーッと顔が熱くなり、余裕を失って結局好きにされた。 その時以来、自分がおかしい。 婚儀を終えて諸々が落ち着いてきたこの頃、夫となった瑞月の多忙もまた始まった。 当初は毎夜早く帰ってきては求められる上に、そのしつこさに疲弊し、帰って来るなと内心思ったくらいだったが、最近その願いが通じたのか、起きている時間に顔を合わせる日が減った。 (きっとそのせいだ) ふと気付くと、雑巾を握り締めたまま、湯殿の一件を思い出し、ぼんやりしている自分がいた。 (昼間っから何を…) また、カッと顔が火照る。 頭を振って、火照りの元となった記憶を頭から追い出すが、気付くとまた思考が逆戻りしている。 お陰で掃除が進まない。 (水蓮様に怒られる~) 必死に目前の拭き掃除に集中し、何とか事無きを得たが、数日経ってもその傾向は変わらず、むしろひどくなっていった。 何しろ、夫を思い出すだけで、顔が熱くなるようになってきたのだ。 いや、むしろそれが普通の反応とすら言える至高の美貌の持ち主なのだが、今まで無効だったはずの自分がなぜこうなっているのか。 幸い、まともに顔を合わせていないので、特に問題にはなっていないが、毎日の掃除洗濯等をこなす能率は下がっており、1人相撲状態で苦労している。 誰かに相談出来れば良いのだが、相談するのも気恥ずかしい。 と思っていたら、 「小猫、最近ぼーっとしているけど、大丈夫?やっぱり慣れない生活に疲れた?」 バッチリ水蓮様に心配された。 「大丈夫です。 たぶん」 そうとしか言えない。 「でも、しょっちゅう顔が赤いし、熱でもあるんじゃない?小猫、自分のことには鈍そうだもの」 そう言って、額に手を当てられる。 「いえ、熱はないと…」 よくわからないが、アワアワと慌ててしまう。 「じゃあ、何で顔が赤いのかしら?」 そう言われた時、運悪く、また熱が顔に上ってきた。 「どうしたの?真っ赤?」 「自分でもわからないんです。 でも、とにかく気恥ずかしいので、そっとしておいて頂いた方が、早く引くかと…」 「気恥ずかしい?」 一瞬困惑顔になった水蓮様だが、次の瞬間には、何かに気付いた様子で、ニヤニヤ笑いになる。 「わかった。 そっとしておいてあげましょう」 そのしたり顔に、また熱が上がった。 そして、遂に、まともな時間に旦那様が帰ってきてしまった。 「お帰りなさいませ」 顔を伏せて、何とかやり過ごす。 「やっとお前の声が聞けたな」 嬉しそうな甘い声に、また顔が火照るのを感じ、顔を上げられない。 「どうした?」 そりゃそうだ。 不審がられる。 それはわかっているが、居たたまれず逃げ出してしまった。 さぞかし、困惑させただろう。 が、耐えられない。 さあ、何処に逃げ込もう、と、ちょっと立ち止まった途端、グイッと肩と腕を捕まえられた。 「何だ?何か怒らせ…って、顔、真っ赤…」 遂にバレた。 どうしていいかわからず、そのままその場に蹲った。 結局捕まったまま、寝室へ連行され、尋問を受けた。 「どうしたんだ?何故逃げる?何故そんなに顔が赤い?」 「わかりません」 俯いたまま、そう答えた。 「熱でもあるのか?」 水蓮様と同じ心配をされ、額に手を当てられるが、ついでに顔を覗き込まれ、また、顔に熱が集まる。 「うわあぁぁ」 思わず顔を覆って突っ伏すと、呆気にとられた雰囲気が伝わってくる。 「すみません。 ちょっと1人でほっておいてもらえると、治ると思うので…」 必死にそう訴えるが、相手は動く気配がない。 「照れて、る?いや、お前に限ってそれは…」 「わあぁぁぁ!」 「え、本当に?」 雲行きが怪しい。 声が嬉しそうに変わった。 恐れた通り、無理矢理顔を覆っていた手を引き剥がされ、かなり赤くのぼせているだろう顔をまともに見られる。 勿論、耐えられず、こちらはぎゅっと目を瞑ったままだ。 「目を開けろ」 「無理です」 「いいから、開けてみろ」 「嫌です」 「何故だ?」 「余計に顔が火照ります。 動悸もします。 無理です」 ククク、と、忍び笑いが聞こえてくる。 こっちは必死だというのに、こんちくしょう! 「笑わないでください!こっちは必死なんです!」 「いつからだ?」 「はい?」 「いつからそうなった?」 「えっと…」 元になった湯殿の一件を思い出し、また火照りがひどくなる。 「最後に顔を合わせた時は、まだこうではなかったはずだから…」 勝手に遡られている。 まずい。 「あぁ、あの日だな」 見えないのに、ニヤリと笑っているのだろうと推測がつく。 「そんなに、湯殿が恥ずかしかったか?」 「違います!」 「まぁ、いい。 それは些細なことだ。 何でそうなっているか、教えてやろうか?」 「結構です!」 余計に恥ずかしいことを言われる気がして、必死に首を振ったが… 「そういうのを、恋煩いという」 「違います」 「違わない」 「うぅ…」 薄々わかっていたが、告知を受けるとやはり衝撃を覚える。 「面白いな。 普通は、恋から始まって、落ち着いた頃に結婚に至るものだが、逆だ」 「もう、わかりましたから、勘弁してください。 1人にしてください」 恥ずかしくて死にそうだ。 「嫌だ。 かわいいからな」 「もう、耐えられないので、いっそ殺してください。 毒がいいです」 「そうか、わかった」 あれ?ヤケに素直に…と思ったが、口の中へ流し込まれたのは、明らかに甘い吐息と、艶めかしい舌の感触で… 「どこが毒ですか…」 「毒だ。 60年くらいかけて効いてくる」 「絶対違う!」 バタバタと暴れて抗議を示すが、大きな体躯の下に敷かれた痩せぎすの体では、反撃の効力はない。 「ちょっとは我慢しろ。 俺は年単位で煩って、だいぶ苦しんだんだ」 「うぅ…」 「猫猫…」 優しく名を呼ばれ、何となく心が落ち着く。 「やっと煩ってくれたなら、本望だ」 「病名がわかったなら、治します!」 「無理だろ、だって…」 頬に掌の感触がつたう。 「恋につける薬は無いって、昔から言うぞ」 「うわあぁぁー!」 恋煩いが落ち着くまで、この後結構な期間苦しんだ。

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